我々人類は長い年月をかけて医学、医療というものを発展させてきました。人類の最初の医学の教科書は、紀元前2600年頃にエジプトで記された200種の病気と治療に関するものだと言われています。それから4600年以上の年月をかけて多くの人の努力とヒラメキと無数の幸運によって、我々の現代医療は形作られてきました。
要素還元主義と全体論
現代医学は要素還元主義と呼ばれる視点での考え方がベースになっています。“複雑な物事でも、それを構成する要素に分解し、それらの個別の要素を理解すれば、元の複雑な物事全体の性質や振る舞いもすべて理解できるはずだ”という概念です。細かく細かく細胞から分子の構成と働きまでを調べて理解していけば、いづれ人体について全てを理解できるだろうと我々人間は考えてきたのです。これは人類が初めて人体を解剖してその構造を学んだときに、身体全体を一度に解剖するのではなく、それぞれの部位に分けて観察を始めたときからすでに始まっていると言われています。
要素還元主義とは逆の考え方として全体論と呼ばれる視点があります。全体論とは“全体は部分の総和以上のものである”という概念です。全体を構成する要素だけではなく、その構成要素の間に存在する無数の相互作用にもそれぞれの構成要素と同等かそれ以上の意味があるということです。これらの考え方は、現在では分子から人間社会に至るまで、生物、社会、経済、精神、言語体系など様々な分野において成り立つことが分かっています。
例えば、音楽においてド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ドとそれぞれの音が組み合わさって和音になることによりそこに暗い明るいというような音色が生まれます。ド、レ、ミ、ファのそれぞれの音は暗くも明るくもなく、それが和音として組み合わさったことによりその音の組み合わせの相互作用によって、暗い明るいという和音の構成要素であるそれぞれの音の中には存在していなかった要素が浮かび上がってくるのです。そしてその和音が組み合わさってメロディーとなり、ベートーベンやビートルズなど様々な素晴らしい音楽が生み出されるのです。
人間とその他の霊長類の大きな違いもこの部分にあります。例えばチンパンジーとヒトのゲノム情報を比較すると98〜99%が一緒でほとんど差が無いと言われています。個体として生物学的にみると大差が無いと言える我々とチンパンジーですが、種全体として比較すると我々とチンパンジーの間にはとても大きな違いがあります。我々人間は集団として集まったときにその個人個人の間の相互作用によって交易のネットワークや様々な儀式や祝祭、政治機構、そして文化と呼ばれる全く新しい体系システムを作り上げてきたのです。チンパンジーが何千、何万と集まってもそこに文化が何か新しいシステムが生まれることはないのです。
二元論
現代の医療は要素還元主義のミクロの視点を中心に大きな発展を遂げています。解剖学、生理学などを基礎医学とした様々な臨床医学が発展し、とても多くの人命が救われ我々人類の幸福に大きく貢献してきました。平均寿命は大きく延び、乳幼児死亡率は大幅に低下、感染症で命を落とす人の数も大きく減っています。しかし、まだまだ全てが解決したと言うには程遠く、癌や生活習慣病、自己免疫疾患にホルモン異常など根本原因がわからず、対処療法に頼るしか方法がないような多くの疾病疾患が存在しています。
世界や事物の根本的な原理として二元論と言うものがあります。これは全ての物事は単独で存在することができず、それらは必ず背反する二つの原理や構成要素から成り立つという概念です。“表”と“裏”、“陰”と”陽”、“男性”と”女性”など片方がなくなれば背反するものも同時に存在することができなくなるのです。
現代の医学に目向けると、ミクロの視点は大きく発展しているにもかかわらず、マクロの視点が大きく欠けていることがわかります。人体というものを理解するにあたり人類はまだまだ一元的なものの見方しか出来ていないのです。ミクロの視点と正反対のマクロの視点、全体論の視点で人体を理解することが今後の医学、医療の発展には非常に重要になってくるのです。ミクロとマクロの両方の視点で二元的に人体を理解することによって、初めて我々人類は人体、人間というものを本質的に理解することが可能になるのです。
今後の医学、医療は要素還元主義と全体論のどちらが正しいではなく、その両方の視点を融合した新しい二元論の時代を迎えるのです。
このブログは、全ての人への愛と人類の限りなく明るい未来のために、医学と医療をより発展、進化させて次の世代へと繋げていくための提案です。