動的平衡:創発、そしてフラクタルに広がる世界

なぜ動的な平衡状態である生命を理解するために、マクロな視点、全体論的な視点が必要なのでしょうか?

全体論とは、“あるシステム全体は、それの部分の算術的総和以上のものである、とする考えのことである。あるいは、全体を部分や要素に還元することはできない、とする立場である。すなわち、部分部分をバラバラに理解していても系全体の振る舞いを理解できるものではない、という事実を指摘する考え方である”(Wikipedia:ホーリズム)とされています。

では、部分の総和以上の”何か”とはなんなのでしょうか?

創発

創発とは、“部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が、全体として現れること”(Wikipedia:創発)とされています。要するに、全体を構成する様々な要素間の複雑な相互作用により、各要素が持っている性質とは異なる何か別の性質が生まれるでるということなのです。そのため全体としては、相互作用の結果生まれ出る性質と各要素の持つ性質を合わせたものになるため、部分の単純な総和よりも大きくなるということなのです。

物事の構成図式の中には、この創発(Emergence)とまた別の直線的(Linear)と呼ばれる考え方があります。これはある性質が構成されるまでの順序が明確に定まっているものを指します。AからBができ、BがCになって、最終的にCからDになるという風に、A→B→C→Dという直線的な順番に沿って物事が構成されていることを、直線的(Linear)と呼びます。これとは対照的に、創発とはA、B、Cを適当に鍋に投げ込んだら、なんかよくわからないけどDが出来上がったということで、A、B、Cを入れる順序も特に重要ではなく、その鍋の中にA、B、Cという要素がある瞬間同時に存在をするということが最も重要なのです。

ヒトの体においてこの創発的(Emergence)現象と直線的(Linear)現象というのは、どちらか一方という形ではなくスペクトラムとしてその両方が臨機応変に様々な割合で存在するのです。例えば消化器系を考えると、口から肛門までの消化管のつながりは直線的(Linear)な現象として捉えられますが、栄養素の吸収後の代謝の部分になると創発的(Emergence)現象としての割合が非常に大きくなります。

要素還元的でミクロな視点による医療は、ヒトの身体における直線的(Linear)な現象を扱うのに大変優れています。しかしヒトの身体には直線的(Linear)な現象だけではなく非常に多くの創発的(Emergence)現象が存在するのです。そのためヒトの身体を全体論的なマクロな視点で理解することが今後の医学・医療の発展のためには大変重要になってくるのです。直線的(Linear)現象を得意とする要素還元的なミクロな視点と創発的(Emergence)現象を得意とする全体論的なマクロの視点が両輪となって進んでいくことが、これからの医療に求められる姿なのです。

フラクタルに広がる世界

脳の機能を見ても、それぞれのニューロンの繋がりは非常に直線的(Linear)な現象として捉えることができます。しかし、千数百億から二千億個と言われるニューロンが集まることによって知能というものが創発されるのです。個々のニューロンが集まることによって、知能が創発されるのと同じように、生命というものも様々なシステムとそれを構成する数多くの細胞が集まることによって創発されるものなのです。

誰しもが知っているのように、生物の身体をバラバラにしたその瞬間に生命というものは存在しなくなります。いくらそのあとバラバラにしたものを再度繋ぎ合わせたとしても、そこに生命が宿ることはないのです。全ての構成要素がそこに同時に存在をする。生物を部分に分けるのではなく、一つのシステムとして捉えることによって初めて生命というものが見えてくるのです。

そして、様々なシステムとそれを構成する細胞たちによって創発される生命に膨大な数のニューロンの集まりによって創発される知能というものが宿っているのが人間であり、その人間が集まることにより文化が創発され、様々な文化の集積が進化、歴史として創発され続けていくのです。

このブログは、全ての人への愛と人類の限りなく明るい未来のために、医学と医療をより発展、進化させて次の世代へと繋げていくための提案です。

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